マリアナ海子の冒険


 深い森の奥にある、小さな小屋で、おばあさんと女の子が暮らしていました。

 女の子の名前は、マリアナ・海子。

 今年で十歳になる、可愛い女の子です。

 海子はおばあさんと仲良く暮らしていましたが、ある日おばあさんが病気になって寝込んでしまいました。

「おばあさん、元気を出して」

 海子は毎日必死で看病しましたが、おばあさんが元気になる様子はありません。

 そんなある日、海子はおばあさんから聞いた話を思い出しました。

「この森の中には、金色に輝く花があって、それはどんな病気にも効く薬になるんだよ」

「すごいわ、おばあさん。それはなんていうお花なの?」

「アカシアという名前だよ。けれど、森のどこにあるかはわからないんだ。それに、森は危険だから、絶対に一人で入っちゃあダメだよ」

 海子は、おばあさんの病気を治すために、アカシアの花を探して森へ入って行きました。

「怖いわ、でも、がんばらなくちゃ」

 しばらく歩いていくと、草の陰から、狼が現われました。

「きゃっ」

 海子は逃げようとしましたが、狼にすばやく回り込まれてしまいました。

 海子が怯えていると、狼は笑顔を作っていいました。

「おじょうちゃん。こんな森の中で何をしているんだい?」

「アカシアの花を探しているの」

「なに、それなら案内してあげよう。ついてきなさい」

 そう言って、狼はのしのし歩きだしました。

 海子は一瞬迷いましたが、狼の後についていきました。

 だいぶ日も落ちてきて、あたりが暗くなった頃、海子は不安になって言いました。

「狼さん。アカシアの花のある所には、まだつかないの?」

 前を歩いていた狼は、くるりと振り返って言いました。

「ふっふっふ。おじょうちゃん、周りをみてごらん」

 狼がにやりと笑うのを見て、海子はとうとう目的地についたのだと喜びました。

 しかし、周りを見て、そんな喜びはどこかへいってしまいました。

 なにしろ、海子の周りには、目を血走らせた狼がたくさんいたのです。

 だらだらと涎を垂らした口からは、するどい牙が覗いています。

「だ、だましたのね! 悪い狼さん!」

 海子はようやく、狼にだまされていたことを悟りました。

「ぐっふっふ。そうだよおじょうちゃん。始めッから、おじょうちゃんを食べるのが目的だったんだ」

 言うやいなや、狼たちが海子目掛けて一斉に飛び掛ってきました。

「きゃあ、助けて、おばあちゃん!」

 海子は頭をかかえて、しゃがみこんで叫びました。

 けれど、おばあさは病気で寝込んでいるのです。助けに来てくれるわけがありません。

 しかし、その時です。

「――あいよ」

海子の耳に、聞き覚えのある声が聞こえました。

遅れて、ヘリコプターのローター音が、森中に響きました。

海子も狼たちも、驚いて空を見上げました。

なんとそこには、ヘリコプターから半身を乗り出しているおばあさんの姿がありました。

「おばあちゃん!」

 海子が叫ぶと、おばあさんはにこりと微笑んで、ジャンプして華麗に着地しました。

 その両脇には、無骨なマシンガンが抱えられていました。

「さあ、狼ども。命がおしければ、かかってくるがいい」

 空中へ威嚇射撃するおばあさんを前にして、狼たちはたじろぎました。

 そして、さしもの狼も、近代兵器には勝てないと踏んだのか、一目散に逃げていきました。

「おばあちゃん、ありがとう。でも、病気は大丈夫なの?」

 海子の質問に、おばあさんはやさしく答えました。

「海子が、おばあちゃんの為に勇気を振り絞ってくれただろう。その勇気が、おばあちゃんまで届いて、病気を吹き飛ばしてくれたのさ」

 おばあさんの暖かい手が、海子の頭を撫でてくれました。

 結局、海子は、アカシアの花を見つけることは出来ませんでした。

 けれど、もっと素晴らしい、勇気という宝物を手に入れることが出来たのです。

 それから海子は、おばあさんと一緒に、ヘリコプターで小屋へ帰りました。

「ありがとうね、海子」

 改めて御礼を言われて、海子は、なんだか照れくさい気持ちになりました。

 けれど、それ以上に、海子は誇らしい気持ちで一杯でした。

「でもね、森は危ないから、もう一人で入っちゃあダメだよ」

「はーい」

 口ではそう言いつつも、海子は、またあの森へ入って、今度こそアカシアの花を見つけたいなあと思っていたのでした。


 <<了>>


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